刑事事件

2016年2月 2日 (火)

号泣元県議」騒動に見る司法の劇場化(終)

 前にも述べたとおり、私は、今回の勾引状の発付及び執行は、裁判所の「行き過ぎ」だったと考えています。たしかに昨年11月、「号泣元議員」が第一回公判期日をドタキャンしたことは褒められたことではありません。しかし、マスコミに取り囲まれ、日本中8世界中?)が注目している事実を目の当たりにしたことで、被告人が精神的な不安定状態になって出廷不能に陥ったことは十分に理解可能なことです。そして、その最たる原因が彼自身の抱える「精神的疾患」にあることも十分に推察可能なことです。

 被告人は「病気が原因」などとは言っていませんが、少なくとも弁護人を通じて、感情や理性のコントロールが出来ない不安定な状況であるという趣旨の弁解をしています。しかし、このような被告人の弁解は、裁判所にはただの「甘え」にしか映らないようですね。裁判所は、「今度こそ何が何でも被告人を法廷に引っ張り出すぞ!」という確固とした信念と執念をもって勾引状の発付と執行に至ったようですから。

 私は当初、今回の勾引状は、被告人が「任意の出廷」を拒んだ場合に備え、強制的に連行可能なアイテムとして「予備的」に用意されたものと考えていました。勾引状が出たとわかれば被告人も下手な抵抗をせず、素直に「任意出廷」するだろう…と言う発想です。ところが、裁判所の考えはむしろ「強制連行(=勾引状の執行)ありき」だったようです。仮に被告人が任意出廷の意思を明確に表示したとしても、そんなことはお構いなしに「問答無用」で強制的に連行する構えだったわけです。私って読みが甘いですね…。

 しかし、それってどうなんでしょう。前にも述べましたが、一般的な刑事事件で在宅起訴された被告人の場合、たった1回公判を欠席したくらいで勾引状が発付されたりその執行を受けたりすることはありません。公訴事実を否認した途端に「在宅」から「勾留」に切り替わるというのも、ちょっと普通ではお目に掛かれません。その意味では「号泣元県議」はすごい「特別扱い」なのです。世間が注目している著名事件だから特別な措置を取る…というのは、明らかに不公平かつ不当な取扱いであり、公平かつ適正な手続を旨とする裁判所のすることではありません。

 刑事事件に詳しい先輩弁護士から「これは『劇場型』というより『激情型』だ」とのご指摘を頂戴しました。被告人が第一回公判をドタキャンしたことで、裁判所が「なめられた」と感じたことは確かでしょう。「馬鹿にされた」という思いは、大きな「怒り」の感情を生むものです。裁判官だって人の子ですから、そのために正しい判断から逸れてしまうことだって絶対にないとは言い切れません。

 ところでこれは余談ですが、「号泣元県議」が収容された「神戸拘置所」は神戸市北区の小高い丘の上(山の中)にあり、暖房設備がないため冬の厳寒季を過ごすのは結構ツライと思われます。かつて、拘置所職員が監房の窓を閉め忘れたために被収容者が凍死した…という痛ましい国賠事件が起きた「いわくつき」の拘置所なのです。そんな「地獄」のような場所に「心の準備」もないまま放り込まれた被告人の運命や如何に…などと、ちょっぴり同情してしまう私です。

兵庫県弁護士会/神戸市中央区/藤本尚道法律事務所
職人かたぎの法律のプロ、弁護士藤本尚道です!

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2016年2月 1日 (月)

「号泣元県議」騒動に見る司法の劇場化(3)

 裁判所は「号泣元県議」を2か月間勾留する旨の決定をしました。在宅起訴された被告人を第一回公判後にあらためて勾留するというのも、また「異例中の異例」の取扱いです。勾留理由は公表されていませんが、「逃亡のおそれ」がその理由だと思われます。この「逃亡のおそれ」というのは、実務上たいへん抽象的な概念であり、具体的な検討もないままかなり安易に認められてしまうのが実情です。

 前にも述べたとおり、被告人は警察での捜査段階では自白していたのに、書類送検後、検察官の取り調べ段階で「否認」に転じています。そのうえで第一回公判期日をドタキャンし、勾引状の執行を受けてようやく出廷した挙げ句、公訴事実を「否認」したわけです。

 ぶっちゃけた話、裁判所は「否認」する被告人のことは絶対「歓迎」しません。上方落語の「天狗裁き」でお奉行さんが「上(かみ)多用のみぎり手数をわずらわしたる段不届きの至り…」と町役らを叱る場面がありますが、「否認事件」は「自白事件」の何倍も手数がかかり、予定していた公判回数や開廷時間などに「狂い」が生じがちです。

 しかも、「自白事件」であれば、被告人の「有罪」を前提に、事実関係や情状を吟味して最終的な量刑をどうするか…の点に腐心すれば足りますが、「否認事件」となれば「有罪か」「無罪か」の難しい判断を避けて通れませんし、事実認定や法律解釈などの争点が「山盛り」になるので、時間だけでなく裁判官に降りかかるストレスも膨大になります。

 そこへ来て「号泣元県議」の被告人質問における答弁は、一問ごとにかなり時間を要し、長い沈黙の後に出てくる言葉が「記憶にありません」だったりするわけですから、裁判長が「さっさと答えて!」などと「いら立つ」のも無理からぬことだと思われます。

 裁判所の立場から見ると、実質審理を1回で終えようと踏んでいたのに、次回公判(2月22日)でもさらに被告人質問を続けたうえ、第3回公判で論告求刑と弁論、その後ようやく判決公判…と、あと3回も公判を開く必要に迫られました。それらの公判のたびに被告人の出頭確保に頭を悩ませ、何度も勾引状の発付や執行を繰り返すくらいなら、いっそのこと勾留した方が楽だ…というのが裁判所の「本音」だったのではないでしょうか。

 一般的に、裁判官や検察官は「犯罪者」に対する「身柄拘束」について、私たち弁護士よりはかなり「寛容的な感覚」です。本来であれば、判決が確定するまで被疑者・被告人は「犯罪者」として取り扱われるべきではありません(無罪推定の原則)。可能な限り身柄を拘束することを避けるべきは当然の要請です。しかし、現実には、裁判官にとって「否認」する被告人は「お荷物」ですし、「否認→罪を認めない→逃亡」という公式も頭の中にありますから、ますます「身柄拘束」の方向へとモーメントが動いてしまうのでしょう。

 ただ前にも述べましたが、被告人は何らかの「精神的疾患」を抱えていると思われます。それが足を引っ張るようにどんどん悪い方向へと働き、裁判所までもが今回の「社会的イジメ」に参加し、ギャラリーを沸かすような格好になっているようで、何とも残念な結果だと思われてなりません(つづく)。

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2016年1月30日 (土)

「号泣元県議」騒動に見る司法の劇場化(2)

 「号泣元県議」は公訴事実を否認しました。おまけに被告人質問における答弁もまったくもって「ちぐはぐ」です。全然訳が分からない…と言っても過言ではないでしょう。弁護人はかなり苦慮したのではないかと思います。この事件では、総被害額とされる金額に利息まで付して1800万円以上がすでに全額弁償されています。公訴事実で摘示された起訴被害額は900万円余りですが、その2倍もの被害弁償を行っているわけです。

 このように被害弁償を終えている状況下で、被告人が罪状を認めて謝罪し、素直に反省の弁を述べるなら、前科前歴のない被告人には間違いなく「執行猶予付判決」が待っていたと思われます。私が弁護人であれば、被告人に対してそのような「弁護方針」を勧めたでしょう。

 そもそも詐欺などの財産犯については、その手口や件数及び被害額・被害感情等もさることながら、「被害弁償の多寡」が量刑を決めるにあたってかなり大切な要素となります。ですから私たち弁護士は、被疑者・被告人に対し、被害弁償の実施を強く求めるのが常です。被害者にとっては被害を回復する限られたチャンスですし、弁償を受けることで被害感情も少しは和らぎます。

 ですから、裁判所も被害弁償という要素を重視することになります。被害弁償の努力もしない被告人に甘い量刑をしたり、逆に、一生懸命被害弁償をした被告人に加重な量刑を科したりはしません。そんなことをすると、「な~んだ量刑にあたって被害弁償なんかどうでもいいのか…」などと、被害弁償が軽んじられる結果、被害者が被害を回復する限られたチャンスを奪うことにもなり兼ねないからです。

 どうやら「号泣元県議」は、警察での捜査段階では全面的に「自白」していたようです。ところが、書類送検された後、検察官の取り調べの際、突如「否認」に転じたとか(そのため警察は捜査を一からやり直し「証拠固め」に奔走したと聞いています)。こうして迎えた初公判をドタキャンしたうえ、勾引されて出廷した公判の罪状認否でも「否認」したうえ、一般人には理解しがたい「弁解」を並べ立てているという構図になります。

 このような「号泣元県議」の行動は、どう考えても一貫性・整合性を欠くものであり、事実認識にひずみがあって合理的に思考することが困難ないしは不可能、そして感情すらうまく制御できない状況にあると感じられます。端的に言うなら、彼自身、何らかの「精神的疾患」を抱えているのではないか…と考えざるを得ないのです。

 世界中の耳目を集めた例の「号泣会見」を見ても、彼がパニック状態に陥り自分の感情をコントロール出来ず、泣き喚く結果になったことが容易にわかります。この彼のリアクションが余りに並外れていたため、マスコミは面白がって彼を「晒し者」として扱い、世間もこれを受け入れて同調してきました。

 これは、私には「社会的なイジメ」としか映りません。彼がみずからの罪を償うべきことは当然ですし、政務活動費の問題は見逃せませんが、マスコミや世間の興味はそういった点にあるわけではなく、みんなで寄ってたかって彼のリアクションを嘲笑し、楽しんでいるとしか思えないのです(つづく)。

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2016年1月29日 (金)

「号泣元県議」騒動に見る司法の劇場化(1)

 裁判所も「世間の顔色」を伺いながら仕事をする時代になったんですね。もちろん「市民が主役」の「裁判員裁判」が導入されたときから、司法のカタチは大きな「変容」を遂げたわけですが、最近は裁判所も「劇場化」の様相を呈することが多く、なんだかなぁ…と思ってしまう私です。

 前回の公判を欠席した「号泣元県議」に神戸地裁が「勾引状」を発付したことは異例の措置です。故意であれ過失であれ、在宅起訴された被告人が公判を欠席することは一定数発生します。しかし、たった一回の公判欠席を理由に勾引状が発付された案件は寡聞にして知りません。一般的な刑事事件では、在宅起訴された被告人が3回くらい公判に欠席しなければ勾引されることはないと言われてきました。

 在宅起訴された被告人が公判期日に出頭しなかったという苦い経験は、私自身が担当した事件でもありましたが、それで裁判所から勾引を示唆された経験はありません。良いか悪いかは別にして、今回の措置がこれまでの「実務慣行」から外れた異例のものだということがわかって戴けると思います。

 マスコミ報道が過熱する中で、世間もこの事件を大いに注目しています。前回もそうでしたが、1月26日の公判当日は、たくさんのマスコミ関係者が神戸地裁の周りを取り囲み、駐車場にはTV各社(NHK、MBS、ABC、KTV、YTV、SUNTV)の衛星中継車がずらりと並んで、リアルタイムにニュース映像を配信する準備が整っていました。

 通常の刑事事件の場合は、神戸地裁の記者クラブに所属するTV・ラジオ・新聞各社の記者が傍聴席の一部を占める程度です。法廷内のビデオ映像は「代表取材」として1台のTVカメラで撮影されます。その映像も公判が開始される直前を撮影できるだけで、その後はTVカメラは追い出されてしまいます。そんなわけで、普段はそれほどたくさんのマスコミが裁判所を囲むことはありません。

 ところが、本件に関しては、地元のTV・ラジオ・新聞各社だけでなく、東京のTV局やワイドショー制作会社などのTVカメラ、そして週刊誌や夕刊紙などのスチルカメラまでわんさかと押し掛け、地裁前の歩道は「すし詰め」状態でした。

 このように「ギャラリー」が余りに多過ぎると、裁判官も神経過敏になり感覚が狂うのかも知れません。「号泣元県議」が「公の場」に登場するのを待ちわびる世間に気を使ってのことか、あるいは前回の公判欠席で「なめられた」と思い頭に血がのぼったのか、いずれにせよ今回の勾引状発付は、裁判所の「行き過ぎ」だったのではないかと私は考えています。

 裁判所が「世間の目」なんぞ気にせず「超然」としていた時代は終わりを告げ、「市民に開かれた」裁判所は「世間の顔色」に気を配り、世間があっと驚く「パフォーマンス」にまで手を染めてしまうのか…などと嘆きたくなるのは私だけでしょうか(つづく)。

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2014年10月28日 (火)

最近の「事件簿」から

 ジャニーズ事務所の有名タレントが、女性の携帯電話を一定期間使用不能にしたとして、器物損壊の疑いで書類送検された…との報道がありました。私はこの報道に接して、幾つかの興味深いポイントがあると感じました。

 まずは、女性から携帯電話を取り上げた行為が「窃盗」ではなく、何故「器物損壊」なのかという点です。相手の占有を奪う行為ですから、ストレートに「窃盗」だと感じるのが通常ではないでしょうか。しかし、窃盗罪の成立には「不法領得の意思」(=権利者を排除して、他人物を自己所有物と同様にその経済的用法に従って利用・処分する意思)を必要とするのが判例・通説なのです。

 この事件では、女性の携帯電話を「その経済的用法に従って利用・処分する」ことが目的ではありません。あくまで動画を撮らせない(あるいはすでに撮られた動画を消去する)目的で相手の携帯電話を取り上げているのです。ですから、この場面では「不法領得の意思」を欠き、したがって窃盗罪は成立せず、器物損壊(あるいは隠匿)の罪に問えるだけ…ということになるわけです。

 ところで、「書類送検」という言葉は、実は法律用語ではなくマスコミによる造語であり、これに対置されるのが「身柄送検」という言葉です。逮捕された被疑者について司法警察員が「留置の必要あり」と判断するときは48時間以内に検察官に送致しなければいけません。この検察官への送致手続を「送検」と呼びますが、単に「送検」と言うと「身柄送検」を指しますので、これと区別するため、身柄を拘束されずに書類や証拠物だけが検察官に送致される場合を「書類送検」と呼ぶようになったのです。マスコミの造語を私たち法律家が普通に使うようになった珍しい事例です。

 さて、この事件は「不起訴」になる見込みだ…と報道されています。その理由はすでに関係当事者間で示談が成立しているからです。器物損壊罪は「親告罪」(被害者の告訴が起訴の要件)ですから、示談が成立し被害者側が告訴をしない(あるいは既にしていた告訴を取り下げた)場合、検察官は被疑者を起訴することができず、不起訴にするしか選択肢がないのです。この種の事件では、ともかく示談を成立させることが最優先であり、ジャニーズ事務所が法外な示談金を支払った…とのウワサが出ることにも「それなりの理由」があるわけです。

 最近は、いつでも誰でも、スマホや携帯電話で写真・動画が撮れますし、これをSNSやTwitterなどに簡単に投稿できますから、政治家や芸能人などの「有名人」にとっては、そういったネット投稿が「致命傷」になることもあり得ます。ネット投稿はいったん流れてしまうと、これを完全に消去することは不可能です。何処かで誰かがその記事等をコピーし、それがまた別ルートで流されるという形でネット上にどんどん拡散してしまうからです。

 そうすると、今回、女性の携帯電話を取り上げ、最大のピンチとも言うべき動画の「ネット拡散」を未然に防いだ行為は、たとえ「正当防衛」とは言えなくとも「過剰防衛」くらいの評価は可能かも知れません。私自身は、「被疑者」とされた有名タレントのことを、実は仲間の最大のピンチを救った「ヒーロー」ではないのか…と勝手に考え、不謹慎にも「ナイス・アシスト!」などと心の中でつぶやいてしまう次第です(笑)。

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2013年11月10日 (日)

刑事判決の言渡しがコワイ

 先週、国選刑事事件の判決言渡しがありました。在宅事件(身柄が拘束されていない事件)でしたが、必ずしも執行猶予付の判決が望めない、たいへん微妙な事件でした。五分五分の割合で「実刑判決」もあり得る事件…ということです。

 被告人が本人であることを確認した後、裁判官が厳かに判決主文を読み上げます。「被告人を懲役○○に処する。」ここで、裁判官はひと呼吸おきます。私たち弁護人は、この次に発せられる裁判官の言葉に全神経を注ぐのです。

 実刑の場合は、「懲役○○に処する。」だけでおしまいです。「訴訟費用は被告人の負担とする。」の一文が加えられることもありますが、国選事件の多くでは、訴訟費用(=主に弁護人の報酬)を被告人に負担させません。従って、その後に何も付け加えられることなく、「判決主文は以上です。」と言い切られてしまうと、まさに「実刑判決」なのです。

 「懲役○○に処する。」の宣告のあと、長い長い時間がありました。私たち弁護人にとっては最もドキドキする瞬間です。その後、ようやく裁判官の口から「この判決の確定の日から○年間、その刑の執行を猶予する。」の言葉が発せられました。ホ~っと、身体の力が抜ける思いです。

 被告人本人には、この微妙な「時間差」は理解できないと思いますが、裁判官のこの「間合い」には、大きな意味があります。本当は実刑にしたいところだけれど、何とか今回だけは執行猶予にします…という厳しいメッセージが言外に含まれているのです。

 自分自身が判決を受けるわけではないのですが、刑事事件の判決言渡しだけは、毎回、たいへん緊張してしまいます。これがまた、弁護士の胃に穴をあける要因の一つになる…というわけですね(涙)。

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2013年11月 4日 (月)

「証拠品」があぶない

 神戸新聞の報道によると、大阪府警は、刑事事件で押収した証拠品を管理する担当者「証拠品係」を全65警察署に配置する方針を固めたそうです。現在30署で試験的に実施しており、早ければ来年6月ごろをめどに全署に拡大するとか。警察庁によると、全署に証拠品係を置くのは全国で初めて…などと知って驚いたのは、私だけではないでしょう。

 え~? 「証拠品係」って今まで独立していなかったんですかぁ? たしかに、大阪府警ではこのところ、捜査員による証拠品の「捏造」や「紛失」が相次いでいますが、その原因が「証拠品」を捜査員が管理していたから…だなんて、思いもよりませんでした。

 TVドラマなどでは、「証拠品」の管理業務は、捜査部門から分離されているのが当たり前のように描かれています。しかし、全国の警察において、それは「常識」じゃなかったことになりますよね。

 これだけ大阪府警の「不祥事」が度重なって、ようやく「再発防止策」として捜査部門から管理業務が分離されることになったわけです。今回の決定自体は良いのですが、これまで何故こんな「当たり前」のことが「なおざり」にされてきたのでしょうか。

 裁判官は「生真面目」な人が多いですから、「証拠品」が警察内部でこのような「いい加減な取扱い」を受けているなんて夢にも思わず、警察の提出した「証拠品」には絶対の信頼を置いているのが通常でしょう。私自身もそう思い込んでいました。勝手に思い込む方が悪い…ということになるのでしょうが、なんだか「騙されていた」気分になりますね(涙)。

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2013年8月22日 (木)

冤罪があぶない(終)

 なんだか「痴漢冤罪」を語り出すと、話が止まらない感が否めません。それだけ深刻な問題を含んでいる…とご理解ください。

 もちろん、痴漢行為は悪質かつ卑劣であり、決して許されるべきものではありません。しかし、それだけに「冤罪」に巻き込まれたら最後、その人の人生が大きく狂わされてしまうことも忘れてはいけないのです。

 では「痴漢冤罪」に巻き込まれないための方策があるのでしょうか。巷でよく言われるのは、吊革に両手でつかまる「バンザイ作戦」ですが、これは一応は有効です。一応…と言ったのは、必ずしも「盤石」ではないことを意味します。吊革にずっと両手でつかまっていたことを証言してくれる人がいないと、相手から「犯人扱い」された場合、結局、「水掛け論」になるからです。

 TVの「法律相談番組」で、「疑われたら逃げろ!」と言った弁護士がいたとか(笑)。しかし、「逃げる」ことは、みずからの「潔白性」を犠牲にすることになります。警察官・検察官は必ず「身に覚えがなければ、何故逃げたのか?」と執拗に責めてくるからです。そもそも、弁護士ともあろうものがTVでそのような「禁じ手」を披露すること自体、この問題に「出口の無いこと」を表わしています。

 私自身は、「微物検査」や「DNA検査」が重要だと思っています。着衣の上から尻などを触った…という「濡れ衣」には、早い段階で「微物検査」を要求すべきです。女性の着衣の繊維片が指先や掌に無いことを証拠として確保してもらうためです。下着に手を入れて陰部に触れた…という「濡れ衣」には、同様に「DNA検査」を要求しましょう。これらは「客観的証拠」として重要視されるものだからです。自分から進んで検査を求める「姿勢」も、冤罪であることを彷彿とさせます。

 本当は、「男性専用車両」があれば一番良いのですが、現時点では、各鉄道会社の中で具体的に導入を決めた話は寡聞にして聞きません。現実問題としては、「痴漢被害」を減らすことが、「痴漢冤罪」をなくす一番の方策なのですが…。

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2013年8月21日 (水)

冤罪があぶない(6)

 たとえ「冤罪」であっても、痴漢事件で「誤認逮捕」されてしまうと、引き続き10日ないし20日間の勾留は覚悟しなくてはいけません。容疑を否認している被疑者について、検察官が勾留請求をした場合、勾留裁判担当の裁判官は「証拠隠滅のおそれ」や「逃亡のおそれ」を安易に認めてしまう傾向にあるからです。

 そのうえ、検察官が起訴した場合に、否認している被告人については「保釈請求」も却下される可能性が高いのです。これも「否認=証拠隠滅のおそれ」という単純な図式であり、かつ、検察官が強硬に「保釈不相当」の意見を出すことが多いため、裁判官も検察官の意見を無視して保釈するわけにもいかない…というのが実情です。

 ですから、多くの「痴漢冤罪事件」では、被告人の身柄拘束が長期に及び、仕事を続けることも許されない(収入の道も途絶える)状況のもと、家族や友人などの支援者が目撃証人探しや現場検証、想定実験などを繰り返しながら、弁護活動を支えてきました。

 しかも、裁判所は、警察・検察の捜査方針を上塗りするような判断をする傾向が強く、「被害者」の供述を重視する反面で、客観証拠を軽視し、被告人の弁解を聞かないことが、これまでは多かったのです。

 しかし、最高裁第三小法廷は、平成21年04月14日、「満員電車内の痴漢事件においては、被害事実や犯人の特定について物的証拠等の客観的証拠が得られにくく、被害者の供述が唯一の証拠である場合も多い上、被害者の思い込みその他により被害申告がされて犯人と特定された場合、その者が有効な防御を行うことが容易ではないという特質を考慮した上で特に慎重な判断をすることが求められる」として、被告人に逆転無罪を言い渡しました。

 あれから4年の歳月が経過して、「痴漢冤罪」に対する裁判所の判断も少しは良くなるか…と期待されましたが、現在でも「痴漢冤罪」は無くなっていないと感じています。どうして痴漢事件だけは、客観的証拠より「被害者」の供述を重視する方向に傾くのか、私にとっては大いなる「謎」なのです。


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2013年8月20日 (火)

冤罪があぶない(5)

 「冤罪」が後を絶たないのが「痴漢事件」で、それも満員電車内での事件に関わる「誤認逮捕」が問題になっています。それだけ、満員電車内での卑劣な「痴漢行為」が多いことを意味しますが、何故、満員電車内では「誤認逮捕」が生じやすいのでしょうか。ポイントは3つあると思われます。

 まず、満員電車内ですから、ほとんど身動きがとれない状態で周囲に多数の人がいます。私も東京に居たころに満員電車で通勤した経験がありますが、カバンから手を放したままでもカバンが宙に浮いてるくらいの「ギュウギュウ詰め」が日常的な風景でした。ですから、満員電車は、そもそも犯人を「誤認」しやすい環境にある…と言えます。

 次に、被害者の女性が、みずから犯人を「特定」した場合に問題が生じることが多いようです。被害者だからこそ犯人がわかる…と思われがちです。しかし、背後から伸びてきた手の「主」を特定することは容易ではありません。「犯人」の顔や服装、髪型などを覚えておいて、ホームに降りたところで、駅員に身柄を確保させる方法では、そもそも「犯人」だと特定した時点で「誤認」している可能性が高いのです。

 そして、目撃証人を確保するのが難しいことにも問題があります。特に、駅に着いて乗客の大きな動きが起きてから、「あの人、痴漢です!」と指差したとすると、その時点では周囲に居た乗客が散り散りになっているでしょう。したがって、「犯人である」ことを証言してくれる目撃証人、「犯人でない」ことを証言してくれる目撃証人、そのいずれについても確保することが困難になります。

 このように、そもそも被害者に「犯人」を特定させることが難しいという「事件の特性」があるわけですから、被害者の供述を「証拠の決め手」にすることは誤りなのです。警察・検察としては、「容疑者」の手指から「微物」を採取したり、目撃証人の確保や捜索、現場の確認や保存をしたり…など、より客観的な証拠の収集を行う必要があるはずです。

 ところが、警察・検察は「被害者」の供述を鵜呑みにし、客観的証拠の収集には力を入れず、「容疑者」の弁解にも耳を貸さない…という方針で「痴漢事件」に臨んできました。 まさに、映画「それでもボクはやってない」の世界ですね(涙)。

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