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2012年5月 4日 (金)

安かろう、悪かろう

 今回の痛ましい夜行バス事故(2012.4.29)の発生を知ったとき、「安かろう、悪かろう」という言いまわしが頭をよぎりました。国語辞典によると、「値段が安ければそれだけ質が落ちる。安い物に良い物はない」との意味です。

 かつて、アダム・スミスは、「国富論」で「見えざる手」の存在を説きました。市場経済において、個人がそれぞれ自己の利益を追求することで、結果的に、社会全体に適切な資源配分が達成される…とする考え方です。つまり、個人がそれぞれの利益を追求することは、一見、社会に何の利益も生じさせないように見えるけれども、実は「見えざる手」によって、社会全体の利益が達成される…とアダム・スミスは説いたのです。要するに「需要と供給のバランス」によって、自然に価格調節が達成されるとの考え方ですね。

 この考え方の最たるものが「市場原理主義」です。市場に対する不要な政府・国家の介入を排除して、市場原理を極力活用する経済運営を行うことこそが、国民への最大の公平及び繁栄を達成させる…とする思想的な立場です。我が国においては、小泉純一郎首相のもと、この「市場原理主義」が跳梁跋扈し、大幅な「規制緩和」が進められたことも記憶に新しいところでしょう。

 ともかく、「ものの価格はすべて市場が適正に決定する」という「幻想」が、現在、我が国をたいへんな「危機」に直面させています。人の生命・身体についての「安全」などがテーマとなる分野では、「需給バランスのみが価格を適正に決定する」という考え方が必ずしも正しいとは言えません。たとえば、医学の世界に「市場原理主義」が持ち込まれたらどうでしょうか。希有な難病に苦しむ人々は、「市場原理主義」のもとでは永遠に救われません。病気の治療に「需給バランス」という考え方を持ち込むなら、ポピュラーな病気は安く治療できても、希有な難病についてはたいへん高額な治療費が必要となるからです。

 高速バスの価格競争の話に戻すならば、大幅な規制緩和で、従来は「がんじがらめ」に近かった運輸行政に大きな「風穴」が開き、いわゆる「価格破壊」が進行しました。価格が安くなることは、一見、消費者にとっては「福音」のように感じられますが、それが「安全」と引き換えになるならば、まったく意味がないどころか「本末転倒」でしょう。

 何もかも「市場原理」に委ねておけば良い…という考え方は、結局のところ、私たちにとって大切な「安全」や「安定的な供給」ばかりか、「品質の維持」という要請をも、悉く「ないがしろ」にしてしまい兼ねません。「安かろう、悪かろう」という言い回しの持つ深い意味を、もう一度かみしめて戴きたいところです。

兵庫県弁護士会/神戸市中央区/藤本尚道法律事務所
職人かたぎの法律のプロ、弁護士藤本尚道です!
http://mbp-kobe.com/lawyer-fujimoto/

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